――愛のカタチ 後編――














あなたの傍にいる事。
ただそれだけが、私の願い。










、彼女は普通の女性、だった。
しかも、この世界の住人ではなく、ある日突然に迷い込んだ異邦人。
あれはの成人式の日のことだ。
日ごろ着ない綺麗な晴れ着に身を包み、髪を結い上げ意気揚々と会場へと向かい足を進めていた。
友人と待ち合わせしていたその場所まで、歩いて向かっていたのだ。
しかし。
その時何が起こったのか。
未だに自身にも分らない。
ただ気づけば、この世界に落とされていた。
そして知り合った趙雲に惹かれ、この世界で戦いに身をおいたのだ。
ただ、彼のそばに居たいが為に。








みっちりと趙雲にしごかれた後、はやっとの事で身を清め質素な寝台に身体を横たえた。
目をつぶり、今日の出来事を思い出す。
染まる血の赤さや、剣が皮膚を突き破る鈍い感触がまだ手に残っているようで。
もう何度も戦に出ているのに、未だに慣れないその光景に、眩暈がしそうで。
ぐっと唇を噛む。
これは、私が選んだ事だから。
目をそむけないで、逃げないで受け止めなければと。
そう思うのに、戦が終わった日だけは、どんなに身体が疲れていても眠れそうになかった。




この世界にやって来て、に不安がない訳がなかった。
けれどその怖くて仕方なかった自分の手を、趙雲が優しく包んで癒してくれたのだ。
そして私はここで生きる術を手に入れた。
これは全部、趙雲のおかげ。
あの時彼に出会っていなければ、自分はどうなっていたのかと思うととても恐ろしい。
女が男よりも軽んじらる世の中で、趙雲だけがどれだけ自分に気を使い、優しく接してくれていたのだと、彼と別れた後、初めて気づいた。
そして、その彼の傍にいるためには、戦う術を持たなければならないと、その力を求めた。
幸い自分は運動神経には自信があったから、何とかなると思ったけど。
さすがに、自分の剣の技術は上がっても、人に剣を向ける恐怖。
自分に剣を向けられる恐怖。
これを克服するのが、とても辛くて足踏みしていた。
そんな日々を送るうち、自分には人を切れないとそう悟り、預けられたあの家で。
大人しくじっと趙雲を待つつもりだった。

あの日。
野党が全てを壊すまでは。


その夜、は自主鍛錬をしようと外に出ていた。
そして、家に戻ってきた時、それを見たのだ。
きらりと光り、弧を描く切っ先を。
上がる悲鳴。
はっと気づけば家の中で奥さんが倒れていた。
急いで駆けつけるも、既に遅く。
主人は剣で応戦するも、深手を負い勝ち目はなさそうで。
相手は数名。
はただ、息を呑んだ。
動こうとしても、身体が動かなくて。
このまま、斬られて死んでしまうのだと、そう思った。
恐怖で震えたその時。
家の主人が叫んだのだ。

「逃げろ! そして趙雲に会いに行け! この私が許す!」

ドクンと胸がなった。

趙雲。

そう、このままここで死ねば、もう二度と会えない。

そこから先は、もう夢中で。
気づけば襲いかかる相手に、斬りかかっていた。
剣が刺さる鈍い感触だけが広がって、でも、それを戸惑う暇はなかった。

それは初めて自分が人を斬った夜。
そして、かけがえのない人を失った夜でもあった。
何も分らない自分を、趙雲の知り合いだというだけで受け入れてくれた優しい人が、目の前から消えた。

生き残った自分は悲しくて悲しくて、それでも生きていて。
そして決心した。
待っているだけでは嫌だと。
力を必ず手に入れて、隣に並んでいたいと。
会えない間に、もう二度と会えなくなる、そんな恐怖は嫌だから。
人を傷つける恐怖、自分が傷つけられる恐怖よりも、趙雲に会えなくなる、その恐怖の方が勝るから。
だから、ここへとやってきた。
それがたとえ、趙雲が嫌がる事だと分っていても。
自分の気持ちに、嘘はつけなかったから。






「我ながら、馬鹿だよな・・・・もっとこう、違う道もあったのに・・・・・」

思い出し、呟いてみるけれど。
やっぱり私は、この道を選ぶはずだからと苦笑する。
今、傍にいられる幸せをかみ締めてただひたすら願うのは。
いつも、あなたの傍にいることだけ。
その為に、出来る事なら何でもやる。
たとえこの手が血まみれになろうとも。












兵の中で女性、というのはまだ少ない。
だからどこにいても、その存在は目立つ。
中でもは趙雲が可愛がっている娘だと評判だったので、かなり目立った存在だった。
そんな彼女にちょっかいを掛けようとするのは少なくて、(趙雲の一睨みで皆逃げていく)この軍の中の生活は外での生活に比べ安定している。
もちろん戦に出れば危険は増すけれど、それでもこの生活をやめたい、とは思わなかった。
以前のように会えなくて不安な毎日を送るよりも、毎日顔を見られる今のほうがとても幸せだったから。
そんなを、趙雲はただひたすら見守った。










それからも毎日毎日鍛錬は続けられ、定期的に戦にも出た。
倒す相手の数も段々と増え、周りを見るゆとりも出てきた。
そして戦に出るたびに、自分の身体の動きが以前よりも良くなっている事にが気づいた頃、初めて、趙雲に褒められたのだ。

、今日の動きは良かったぞ? 初めてだな、こんなに安心して任せられたのは」

にこりと笑顔と共に、その言葉を聞いた瞬間、今まで頑張り続けていたの涙腺が、ほろりと緩んだ。

「っく、あ、ありがとう、ございますっ」

えぐえぐと泣きながら、顔をこすりながらは趙雲から顔をそむけた。
泣き顔を、見られたくないから。
それなのに、趙雲はの顔を覗き込む。

「!」

「はは、すごい顔だな」

「も、もう! 何言ってるの、趙雲ったら!」

その言葉を聞いて、趙雲の目元が緩んだ事には気づかない。

”趙雲”久しぶりに聞く、の私を呼ぶ名・・・・

「今日は褒美にご馳走してやろう」

「! 本当に?」

「ああ。好きなものを食べていいぞ」

「やった!」

「どこに行きたい? どこにでも連れて行ってやる」








それは数年前、出会った頃に戻ったそんな感覚で。
久しぶりに過ごす、二人の時間に酔いしれて。
時が経つのも忘れて、この一時を楽しんで。

そして、又、戦の日々が始まる――――

二人より添い、戦う日々が。










! 敵は向こうだ、任せたぞ!」

「はい!」

ばったばったと敵をなぎ倒し、以前とはまるで比べ物にならない戦いぶりを見せる二人の動きに、この二人の下につく兵は見惚れることも多かった。

二人の連携は、今やかなりの名物になろうとしていた。

背中合わせの二人が、互いを補い合い、舞うように戦う様が。










関羽の言ったとおり確かにの腕は上がった。
自信、という大事なものを、趙雲がに贈ったその後、彼女は急成長を遂げた。
かなりの兵を任せても安心できるくらいに。

けれど、問題が一つ。




「関羽殿!お願いです、もう何とかしてください!」

「は? どうしたというのだ」

「趙将軍と殿のことですよ〜!」

「?」

「もう、どこでもかしこでもいちゃついて困るんです!」

「あれで自覚なしってのが手に負えないですよね!」

「何とかしてくださいよ〜 目の毒です!」




の腕が上がると共に、こんな類の苦情が増えた・・・・・

どうやら今までのしごきの時間が、語らいの時間に多少変化したらしい・・・・・

関羽は額に手を当てつつ、すまなそうにこう答えるしかなかった。


「皆、すまん・・・だが、我慢してやってくれ。 あれで、趙雲は不憫なやつなんだ・・・・・」


皆の言うような関係は、趙雲との間にはない。
けれど、しっかりとした信頼は、強く結ばれているようで。
その信頼が、形となってそう、現れるらしい。(迷惑な事だ)
でも、事情など知らない周りの物は、激しく目のやり場に困る、という。


あやつら戦が終わった後、一緒にでもなったらこれ以上どういちゃつくというのか(汗)


そんな心配をしながら、関羽はそれでもと思い直す。


あの日、初めて趙雲の想いを知ってから数年。
どうなるものかと二人を見守ってきたけれど、こういう形の愛情もあるのだと初めて知らされた。
それは他からしたら、なんて遠回りなんだろうと歯がゆいものであるけれど。

それでも、二人が幸せそうに笑っているから。
それに、


・・・・・・・あの趙雲だしな・・・・・・・・


と、結局はそこに行き着いて。

これからも二人をそっと、見守る事にする。







そして二人は寄り添いながら、戦場に立つ。
この地に、戦がなくなるその日まで。

そして、その日は、だんだんと近づいていた――――









願いは唯一つ。

傍にいること。
傍に、いてくれること。

その為ならば、なんでもする。





私の願いは、彼女の幸せ。
それを守る為、全てを賭ける。

















いつも大変お世話になっております瑛月さまへ、お贈り致しますv
めちゃめちゃお待たせしてすいません。
が! 立志仕立て・・・・だったですよね??? 
上官趙雲だったですよね・・・・・(滝汗)
ご、ごめんなさい、最高に誤爆した模様です〜!!! オーノー!
こ、こんなものでよければ貰ってやって下さい・・・・・・・ああ、もちろん返品可ですので!
立志には又チャレンジしてみますが、今はこれで〜! ごめんなさいです!
これからもなにとぞ、よろしくお願いします!

2006.1.19





もうっ、もうっ、すっごくすっごく感激して……嬉しいですっ!!
曖昧なワード並べてリクしてしまったのに…こんなに素敵なお話が頂けるなんて…!!
本当にありがとうございます!!!
時に厳しく時に優しい上官趙雲。
立志の趙雲さんのイメージにピッタリだと思いました!
素敵な趙雲さんをありがとうございました〜♪♪